「要するには、爪術士だったんだな」
「うん、ほら……」


 雪花の遺跡へと向かう道中、セネルの問いかけには爪を輝かせた。するとはその爪の光を自信の爪から払うように腕を振るう。爪から分けられた光は風にのり、やがて風圧の塊が鞭のようにしなり、岩へ当たった。その岩は、の爪から現れた風圧体に呑まれるにして粉々に砕け散った。その砕ける音を聞いたノーマとモーゼスは相当驚いた用で、ぎょっとした表情を作っている。


「…え」
「ちょっ、ちょ、ちょっと〜!、危ないじゃんっ!」
「?うん、ごめんなさい」


 はきょとんとしたような表情を作り自分の手を見る。以前は岩一つ砕ける程の威力など、無かった。久々だからそう感じるだけだろうかと首を傾げたが、雪花の遺跡を前にして考えるのをやめた。するとウィルがの方へと向き直り警告のような言葉を発した。


「そうだ、。言っておきたい事がある。」
「…?」
「お前はヴァーツラフの元で囚われ、食事もろくにしていない体だ。
 万全の状態ではない今の身体で、爪術を使う事は了承できないな。」
「えっ、で、でも…それじゃあ、私…」
「この場から街へ帰れとは言わない。よほどの事が無い限り、今は爪術の使用はしない事だ。」
「……」
「そしてお前は今、武器を持っていないな?先ほどの攻撃から見るに、お前はアーツ系だ。武器なしでは心元ないだろう」
「はい…」


確かに、爪術や体術共に精神力を使う上、身体の疲労は大きい。
今のが戦闘員として爪術を使っていては、身が持たないだろう。
自分を心配しての言葉だと理解すると、は父を見ているような気持ちになり嬉しかった。


「あ〜ついたついた!」


 雪花の遺跡へと入ると、ノーマが歩きつかれた、と言わんばかりに膝に手を付いていた。
それに続きも壁に手を付き呼吸を整える。少しづつ身体を慣れさせていかなければこの先爪術を使う事もできないだろう。
ウィルの言葉に絶対的に従う訳ではないが、それが自分の為なのだから仕方が無い。


「うわ〜うじゃうじゃいるねえ」
「警備が厳重だな…」


 どうにか潜入する手はないかと物陰に隠れながら相談していると、やや甲高い声が響いた。


「どうしてバカ山賊が皆さんと一緒にいるんです?」
「ジェイ、中に潜入する手はないか?」


 ジェイ、と呼ばれた少年?はないこともありませんが、と鼻で笑うような仕草をした。ノーマがそれに飛びつくように笑顔を作る。が少年を見つめていると、その視線に気付いたのか目が合った。


「貴方も、あの場に捕らえられていた方ですか?」
「えっ…あ、うん…」
「そうですか。セネルさん、非戦闘員を危険な場につれていくのは…」
「いや、爪術士だし」


 ノーマがジェージェーも見かけにだまされたりするんだねえとけらけらと笑ったが、ジェイは眉を潜めるだけでノーマへとつっかかるような真似はしなかった。するとジェイはノーマを無視するようにさて、と咳払いをひとつした。


「毛細水道で失敗したらその話になると予測して調べておきました。
 皆さん、僕の情報にどれだけの金額を出す覚悟がありますか?」
「全額だ。」


 セネルの全額、という言葉に、ジェイはたいした額ではないのだろうとまた鼻で笑った。それにセネルは顔を歪めたが、ジェイはまたそれさえも相手にせず続けた。でさえ、大人っぽい少年だと思う。隙が無く、子供らしい面が見当たらない。


「命。」
「そんなものでいいのか?」
「命ですよ?それより高いものなんて、ないと思いますがね」
「いや、私たちは、何をするにも命がけなのだから。」


 ジェイの言葉に、クロエが凛々しい笑みを作り頷いた。するとジェイはそれに納得したのか、丸めて懐にしまっていた地図を取り出し広げ始めた。


「ここ、巨大風穴にもうひとつの潜入経路があります。
 ポッポを現地へと向かわせていますので、ご安心を」


 ジェイが一通り説明し終えると、ウィルが感謝の言葉を述べた。そしてセネルが行こう、と声をかけると、ノーマとモーゼスがおう!と元気よく空へと拳を掲げていた。この二人は相変わらず能天気だな、とが内心思っていると、ジェイが考える仕草をしている事に気が付いた。


「…どうしたの…?」
「あ?いえ、何でもありませんよ。どうぞ行って下さい」
「うん」


 彼の先を急かすような言葉に首をかしげながらも、はセネル達の後ろを付いていった。そしてそこで、ジェイの1人でぽつりと呟いた言葉は、虚しく響いた。


「もっと安い情報もあったけど…まあいいか、納得したみたいだし」



 先ほどのように駆け足で進んでいくと、セネル達を飲み込む程の大きな穴がある場に付いた。そこは、名の通り巨大な穴で、穴が風を吸い込んでいる。運悪く足を滑らせれば永遠に戻ってこれなくなるような気がした。と並びクロエが関心していると、ノーマがぴょこぴょこと跳ねるようにして一つの石版へと近寄っていった。


「あったあった!露滴碑版!」
「ろてき…?」


 ノーマの放った言葉に、モーゼスは首を傾げていたが、ノーマはかまわず言葉を続けた。


「元創王国時代の記録を刻んだ、特殊な碑版のことだよ。
 しかもここにあるのは、そこらの露滴碑版とは違うんだな。」
「どう違うんだ?」
「話すより試したほうが早いっしょ。きてきて〜遺跡の扉開けるときみたく、手、当てんの。ささ!」


 ノーマは皆に手招きをすると碑版へと手をあてる。皆もそれに習い手を当てると、手をあてがった部分から光が漏れ出し、穴からは地響きのような音が響き始めた。


「わかった?ここの碑版が、中の仕掛けを動かすスイッチになってんの。
 最初にこうしとかないと、途中で下りられなくなるらしいんだ。」
「ノーマって…物知りなんだね…」
「でしょでしょ〜!もっと褒めて褒めて!」


 が素直に関心していると、ノーマはふんぞりかえるように笑顔を作った。本当にノーマのころころと変わる表情は見ていて飽きない。すると皆が乗っていたはずの床がゆっくりと地面へと向かって降下し始める。は驚いてノーマへと抱きついたが、ノーマはけらけらと笑うだけだった。


ってば、びびりすぎ〜」
「だ、だって…」
「ま、あたし達がいるからだいじょぶだって!」
「うん…」


 下へ下へと降りると、特殊な地面が一行を待ち受けていた。どんどん先へ進み、下へ降りるの行動を繰り返しているうちに今までとは雰囲気の違う場所へと付いた。恐らく最深部らしく、水が流れている。しかし、人工物のように手の加えられたこの場所は、何かの開発をしている場のようにも思えた。この場にたどり着いた時から目に入る水場は、幅が広くなっており、ノーマは頭をかいた。


「わあ…」 
「川の幅が広くなって、泳がないといけなくなったりして?」
「!不吉なことを言わないでくれ!」
「どったの、あわてて」
「私…泳ぐのには自信があるから大丈夫…」
「そりゃ、は水の民だもんねえ」
「う、うん…でも、里の皆は私よりももっと上手…。だって、水の中で呼吸ができるし」
は水の中で呼吸できないのか?」
「あっ…え、う、ううん。できる、よ」


 セネルの問いに、は慌てたがセネルは特に気にしていないようだった。しかしそれは、ウィルの興奮した大声によって遮られてしまった。皆の視線が集まる。


「巨大生物の骨がこんなにもたくさん!一体何の骨だ…?
 これは…!信じられん!ここにある骨は、すべてグランゲートのものだ!」
「何こ〜ふんしてんの、ウィルっち」


 しばらくウィルの暴走に付き合っていると、モーゼスが拳を握りウィルへと近寄り始めた。今度は何だとノーマとは眺めていると、ウィの字の気持ち、ワイにはようわかる、と握っていた拳をウィルに見せ付けるような仕草をした。


「ワイも昔っからゲートに会いたい思っとったんじゃ!」
「よく言ったモーゼス!お前には見所があるぞ。」
「できれば海におる奴のほうが、良かったんじゃがの
 この際、えり好みはしちょれんわ」
「うむ!」


 するとモーゼスはきょろきょろと辺りを見渡して生きたゲートはどこだとわめき始めた。そこでとある事に気付き、ノーマとは顔を見合わせた。会話がまるでかみ合っていないのだ。すると、ぱたぱたと軽い足音が響きはそちらへと視線を向けた。


「皆さん、よく来てくれたキュ!」
「ちい〜〜す、ポっちん!」
「あ…!あぁ…!」


 小さく短い足で懸命に走り寄ってくる姿、黒く大きいつぶらな瞳。あの水道で見た生き物と同じ。は思わずそれに駆け寄り抱きしめた。セネルがぎょっとした表情を作る。そこに映ったのは水道の時とは考えられない程の笑顔だった。