暖かい。こんな幸福感を感じるのは、本当に久々な感じがした。けれど、視界には何も映らない。真っ白。真っ白な闇が視界を覆っていて、ただただ暖かいという温もりが私の身体についてまわるというのだけは理解できた。


 がゆっくりと瞳を開くと、今だぼやけた視界に映るのは”白”だった。は目を瞬かせ、きょろきょろと辺りを見渡した。先ほどの温もりはまだあるな、と思った瞬間、あーっと黄色い声が聞こえてきた。それには身体を跳ねさせる。


「セネセネぇ!この子起きたじゃーんっ!」


 セネセネ?とは少し下を向くと、銀髪の髪の少年と目が合った。その時に走る電気のような恐怖感に、はセネルを突き飛ばした。けれど疲労や身体のなまりのせいか、セネルはよろめくどころか小さく呻いただけだった。すぐにはこの少年におぶさっているのだと気付くが、セネルはを下ろす気配はない。


「危ないだろ」
「……っ、はなして!はなしてよっ…!」


 セネルは腰を下ろしを下ろしてやると、は脱兎のごとくセネルから放れた。ウィルは対人恐怖症か何かか?と首を傾げたが、セネル自身は気にしていないようだった。そして皆がを見ると、はじりじりと後ずさる。身体はガチガチと震えていて、今まで水に使っていて凍えているのか、自分らにおびえているのか、どちらなのかすらわからない。(多分、両方)すると、はすぐにがくりと膝を突いた。


「おい、大丈夫か!」
「さ …触らないで……!」


 セネルがに手を伸ばそうとした瞬間、は腰が抜けたように座り込む。口はわなわなと震えていて、すぐにそれを隠すように頭を抱えた。それを見たクロエがに駆け寄ると、一瞬びくりと身体が跳ねたがセネルの時のような拒絶は起こらなかった。


「大丈夫か?落ち着くんだ。深呼吸をして」
「おい」
「!」


 ウィルがへと一歩近づくと、がぎょっとしたような瞳でそれを見据える。怖い恐ろしい近寄らないで。鋭い嫌悪のまなざしに、ウィルの足が止まった。どう対応すればいいものか。するとノーマがぴょこぴょことへと近づき笑顔を振りまいた。


「ね〜ね〜、そんなにおびえてるだけじゃ、何にもなんないじゃん。あたし達はあんたの敵じゃないよ〜?」
「……で、でも」
「こっちは話を聞こうとしてんのに、あんたが逃げてちゃ話になんないじゃん!わかる?」
「そうだぞ。大丈夫、ここにいる皆、お前の事を心配している」


 が周りを見渡すと、自分の嫌いなメラニィやカッシェルはいない。ほっと胸を撫で下ろすと同時に、すっと目の前に何かが差し出されるのが解った。ちらりと視線を向けると、銀髪の少年の手。は驚いて数歩後ずさるが、一言ごめんなさいと謝った。


「?外まで送っていってやるから、」
「…、そうじゃなくて、私、」
「どうした?」
「男の人、さわれなくて、こわいから、…その」


 ああ!とノーマがぽん、と手を打つとセネルの腕を思い切り引っ張った。後ろに引かれた衝撃でセネルは腰をつく。そしてノーマはずいっと前に出てまたにかっと笑顔を作る。


「セネセネは下がってて!嫌がってるじゃん!
 あたし、ノーマ・ビアッティ!あんたは?」
「う……・ブランシェ…」
「へえ〜、かあ!」
「いい名だな。私はクロエ・ヴァレンスだ」


 は急にあだなをつけられ戸惑っていたが、女性陣で勝手に自己紹介を始めたものだから、セネルはきょとんとしてしまった。すると、ノーマはちゃっかりとウィルやセネル、あえてはモーゼスの自己紹介までし始めた。しかし、は戸惑い皆の顔をきょろきょろと見るだけ。


「ノーマ…クロエ…ウィル…セネル…モーゼス…」
「そそ!んでえ、今からあたしたちはセネセネの妹を探しにいかなきゃいけないんだけど〜…」


 ノーマが軽く事情を説明すると、はある程度飲み込んでくれたようで小さく頷いていた。クロエが出発するぞと軽く声をかけるとノーマがの手を引いて走り出した。


、走れる?」
「あ……う、ん」
「うしっ、んじゃーレッツゴー!」


 久々に握った人の手は暖かかった。その暖かさが、じわりと心に染み渡るようで、は言い様のない嬉しさを感じていた。歪な愛を受けるよりも、歪んだ暴行を受けるよりも、素直な人の温かさが一番嬉しいと思った。