兵が1人、こちらへ走ってくる。それを確認したメラニィはにやりと目を細めた。


「どうやら見つけたようだねぇ」


 がよろりと立ち上がると、メラニィは兵を連れてばたばたと水道内を走っていった。その際、スティングルは付いて行かず、のそばに居る。にとってはそれがたまらなく不可解で不愉快だった。監視する為に残ったのだろう。今のには、そうとしか考えられない。はおぼつかない足取りでメラニィの後ろを追おうと歩き出した。


「どこへ行く」
「………」


 歩き出した所で、仮面の男はの歩幅に合わせて歩いてくれた。そのお陰で、魔物と遭遇しても、その度にスティングルが切り倒してくれる。その事には感謝せざるを得なかった。そしては相変わらずすぐに息が上がってしまうこの体を憎んだ。ぜえぜえと息を荒げてようやくメラニィが視界の端に入ったと言う所で、地鳴りのように水道内が振動した。


「っきゃ…!」


 はすぐに膝を砕かせたが、慌てる少女の声が聞こえた事から、完璧に見つかったのだろうと考えた。その際に聞こえたメラニィの高らかな笑い声は、狂喜に感じた。


「何の振動だ!?」
「ここがどんな場所か、知らないのかい?だったら教えてやろう
 答えは、これだっ!」


 がしゃり、とすぐそばにあった柵が開く。再度響く振動。そして道がいつのまにか水で満たされてゆく。はその様を見て、後ずさろうとしたが、振動のせいで水の中へと突き落とされた。最後に見えたのは、上の階から自分へと向かって手を伸ばしている仮面の男だった。は落ちるという恐怖感のせいか、背筋が凍るという表現よりも、その先を越えて背中が熱くなったような感じがした。ごうごうと流されてゆく水の中。苦しい、苦しい。水の刺すような冷たさが体を痛めつける。その痛みにとうとう耐え切れず、は意識を失った。


「上へ戻るんだよ。ウィルやノーマも探さないと。」
「ああ、そうだった…な」
「しっかりしてくれ」
「う、うるさい」


 銀色の髪の少年、セネル・クーリッジと、こげ茶色の髪の色に青い帽子とマントを着用した少女、クロエ・ヴァレンスはぶつぶつと話し合っていた。あっという間だったが、ここに流されてくるまでにはしばらくの時間が掛かっていたはず。何せ此処は、毛細水道の最深部なのだから。セネルとクロエは足場の悪い階段を上ろうとした時、何かを発見した。


「…!?」
「どうした。クーリッジ」
「あれを見ろ!」


 セネルが指差した先には、ぐったりと力なく倒れている少女の姿がある。クロエは口元を押さえて少女へと駆け寄る。体はげっそりと痩せていて、手首には手錠か何かをさせられていたような真っ赤な跡があった。セネルも駆け寄り少女の肩を揺する。けれど、目を覚ます気配は一向にない。


「ま、まさか…」
「大丈夫だ。脈はある」
「そうか…。大分衰弱しているようだな。上へ一緒に連れて行って、レイナードにブレスをかけてもらおう」
「それがいい」
「だが、連れて行って、あの兵士達に捕まらなければいいが…」


 セネルは少女を背に背負い、クロエに向き直った。クロエはセネルの背に背負われている少女を見た。少女は、微力ながらも呼吸しているようで、肩が上下に動いている。少女は、生きている。だからこそ心配なのだ。しかしそこで、セネルの瞳がクロエを捉えた。


「だったら、俺たちが守ればいい」
「!あ、ああ、そうだな!」


 クロエはほっとしたように肩の力を抜いて頷き、先へすすもうと急かした。セネルもそれに続き、ゆっくりと、けれどしっかりと歩いてゆく。足場の悪い階段を上り、しばらく歩くとお気楽な少女の声が聞こえた。セネルとクロエはきょろきょろと辺りを見渡し確認する。すると、黄色いぼんぼんと黄色い服を着た少女、ノーマ・ビアッティとハンマーを手にしたがっしりとした男、ウィル・レイナードがこちらへ走ってくるのが解った。


「お〜い!セネセネ!クー!」
「二人とも、無事だったか。…ん?その娘は」


 ウィルはセネルの背に乗っている少女を確認すると、首をかしげた。セネルが足を止めたため、金色の長髪がセネルの肩にかかった。セネルはそれがこそばゆいらしく、少し身をよじったが、言葉を続けた。その際にノーマがぴょこぴょことセネルに近寄り少女の安否を確認しようとして、ぎょっとした形相になり、数歩後ずさった。そしてノーマはこの子、すんごい痩せてるよ、死んじゃったりしないよねえ!?と叫び声をあげた。


「大丈夫だと思うぞ。上から流されてきたみたいだ。大分衰弱してる。ウィル、頼む。」
「ああ、解った」


 ウィルが回復ブレスをかけてやると、紫色だった唇に赤みが差し顔色も徐々によくなっていき、だいぶ呼吸も安定したようだった。その時、ウィルが少女の首にかけてあるタグを見つけ、手に取り書いてある内容を確認した。


「混血種01…?何か嫌な薬品でも投与されていたのだろうか」
「とりあえず今は無事なようだし、先へ進んだ方がいいのではないか?もちろん、そのタグも外して。」
「解った。なるべく動かさないようにはする。それにシャーリィが心配だ。急ごう。」


 セネルは少女を背負いなおすと歩き出した。皆もそれに続き、歩き出す。しばらく足を動かしていくと、赤いぼさぼさの髪に眼帯、そして一匹のガルフを連れた男、モーゼス・シャンドルの姿が映った。モーゼスはセネル達を確認すると、鼻であしらうような仕草をする。


「オウ、ワレらか、こんなところで会うとは、奇遇じゃの」
「モーゼス!?」


 1人、バカ山賊という声も聞こえたが、モーゼスは案の定それに反応し、ぎゃんぎゃんと吠えた。するとノーマが頭の後ろに両手をやり、足を組み、けらけらと笑った。


「ジェージェーのまねしただけだも〜ん」
「モーゼス、こんなところで何をしている」
「ん?水路の真ん中歩いちょったら、いきなし水がドバーきおっての。あれよあれよと下まできてしもォた。まいったわ!クカカ!」


 するとモーゼスはセネルへと一歩近づき、ここで会えたのも何かの縁じゃと続けた。セネルはモーゼスを睨めつけ返す。モーゼスはセネルの背中の少女を確認したようだが、こう言い放った。


「こないだの続きとシャレこむか、」


 しかし、その言葉は最後まで続ける事はできなかった。何故ならそれはウィルの盛大なゲンコツによって止められてしまったから。続いて、セネルの頭にもがつんとゲンコツが落ちる。するとウィルは殴った拍子にセネルの背中の少女が反動で揺れた事に気付きうっかりと殴ってしまった自分を恨む。けれど、少女が起きる気配がないことから、ウィルは言葉を発した。


「状況をわきまえろ、バカ者どもが。
 敵だの味方だの、粋がっている状況でもあるまい」


 気を失っている少女がいるせいか、その声は小さかったが、皆の中に大きく響いた。しかしモーゼスは腕を組んで馴れ合いはごめんじゃとそっぽを向いた。


「ならば好きにしろ。オレ達の邪魔はするなよ」


 ウィルが警告のように発すると、ウィルの後ろでノーマがするなよ、とウィルを真似たが、モーゼスはケッと捨て台詞を残した。