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ざわざわと草木が多い茂る森を抜けると、マウリッツが足を止め、ここが我々の拠点だ、と辺りを見せるような行動をした。しかし、辺りどころかあるのは大きな大木だけ。ノーマがもしかして、と一歩前に出た。 「もしかして…野宿?」 「はは、まあ見ていてくれたまえ」 マウリッツは一段と目を引く大木に向かって手を翳す。すると砂漠の陽炎のように景色がぐにゃりと歪んだ。そして次に珊瑚のような独特の色と模様の拠点が現れる。 「敵の目を欺く為、結界を張っていたのだよ」 「おー!すっご〜い!」 ノーマが興味津々に拠点を見て回る。クロエやウィルも珍しい出来事にそわそわとしていた。しかしだけは、この結界に懐かしさを感じていた。の故郷…それもとても幼い頃の話だが、自分の故郷にも結界は張ってあったからだ。水の民は極端に陸の民を嫌う為、基本的には同族しか招きいれようとしない。は心につっかかりを感じながらも、珊瑚色の建物を眺めていた。 「?どうしたの、行かないの?」 「えっ…?あ、うん。少し、…懐かしくて…」 ふいに尋ねてきたフェニモールに、きょろきょろと辺りを見れば皆はもう建物の中に入ってゆくという所だった。自分も行こうか、とは考えたが、その瞬間、気持ちのいい風がの髪を撫ぜた。隣に居るフェニモールはの様子を見て首を傾げていたが、はそれに向き直り、彼女に告げた。 「フェニモール…どうせ行っても、難しい話しか、…しないんでしょ? 私はここにいるから、皆で話を進めてて…って、言って来てくれないかな…」 「もう、ったら。そのぐらい自分でいいなさいよ」 フェニモールは腰に両手を当てて頬を膨らませたが、が駄目?と聞き返せば彼女は呆れた様な笑みを作り仕方ないなあ、と建物へと背を向けた。すぐに戻ってくるから、という言葉も添えて。 「ふぅ……」 先程のような風が、再びの髪を撫ぜる。はため息を吐いた。周りを見れば、数人水の民がいるが、マウリッツからの事は聞いているのか、嫌悪するような目は向けてこない。色々と考えることが多くて、ストレスが溜まっている気がする。けれど、この短期間、混血種だとばれない本当に短いこの期間だけは、色々と考え事や悩みを解消させなければいけない。は前髪を掻き上げると、ハッとある事に気づき、指を軽やかに振った。すると羽が水のように儚い海の色の蝶が舞う。羽の所々が水の泡のように欠落していて、本当にそれで飛べるのだろうかと疑問に思う。はそれを上手い具合に指先に止まらせる。まるで本物の蝶のようだ。 「…フェルクェス… 私にもテルクェスが出るなんて…思わなかったな…」 すると、ぱたぱたとフェニモールが軽やかな足音を立てて戻ってきた。フェニモールはのテルクェスを見てそれ、と指差した。 「それ、のテルクェス?」 「あ…う、うん」 「へえ、変わった形をしてるじゃない。…でも、とてもきれいな色をしているわ」 きらきらと海に光が差し込むように、のテルクェスは太陽の光で輝いている。そこで、フェニモールが思い出したようにあ、と呟いた。何か大事な話だろうか。が手の平を軽く握り締めるような動作をするとテルクェスは水の泡になって消えた。 「、よく聞くのよ」 「…?」 「これから戦争が起こるわ」 ”戦争”実際には体験した事はないけれど、ヴァーツラフ軍が水の民を一方的に攻めてきたように、それが両軍とも争い始めるという事だろう。多くの血が流れて、それで… はぼんやりを考えていると、フェニモールが続けた。 「それで、ウィルさんの源聖レクサリア皇国と水の民が、同盟を組む事になったの」 「…同盟…その話って…」 「着々と進んでるわ。ウィルさんも仲介役を引き受けてくれたし」 「そう、なんだ」 水の民の皆も着々と準備を、フェニモールがそう続けようとした瞬間、拠点の入り口がざわりと騒いだ。どうしたんだろう?フェニモールが首を傾げると、が行ってみよう、と入り口まで駆け足で向かった。そこに居たのは、毛細水道でセネル達が助けた男だった。長い前髪で片目を隠していて、特徴的だったからも覚えている。しかしそれよりも気になったのは、彼と共に居る重症の水の民。フェニモールは両手で口元を押さえると、すぐに手当てします、と建物の中へ入っていった。 「あっ…フェニモール…!」 「…何だ、貴様は」 片目の男がを睨めつけた。その眼光にの体がすくみ上がる。何だ、とはあの時の事は覚えていないのだろうか。まあ彼も怪我で目を覚ましたばかりだったせいもあり、覚えていなかったのだろう。 「え…と…あの……」 「邪魔をしに来たのなら帰れ。見世物じゃない」 つっけんどんな態度にも遂にカチンと来た。は手当てをしていた彼をどん、と道の端に突き飛ばし、重症の男の前に座った。座った後で後悔する。生憎はブレス系でもなければ回復ブレスなんて覚えていない。どうしよう、と悩んだ結果思い出した。の技の中には、治療功がある。は両手を横たわる男に翳して気を集中させる。淡い光が集まり、男の傷を少しずつ癒してゆく。けれど、治療功は応急手当であって少しでも無理をすればまた傷が開くだろう。そこで、先程も聞いた老人の声が後ろから降ってきた。 「ワルター、何があったのだ」 「ささやきの水晶の入手に失敗した。」 「なんと…」 ワルター、と呼ばれたあのつっけんどんな男がぶっきらぼうに答えた。マウリッツと共に戻ってきていたセネルが大事なものなのか?とマウリッツに尋ねる。マウリッツは頭を抱えながら、我々の勝利の鍵を握っていると言っても過言ではない、と告げた。そこで、セネルの後ろにいたノーマがはい、と挙手した。 「はい!はいはいは〜い!だったら、あたしらが取ってきま〜す!」 「諸君らが?」 「うん!だから、取ってきたら同盟軍に入れてください!」 ノーマが凄く爽やかな笑顔で答えた。その事を聞いたウィルががくりとうな垂れる。それとこれとは違う、と付け加えて。しかし、マウリッツはいや、とその言葉を跳ね除けてそうしてくれればとても助かると皺の目立ってきた目元を細めた。 「はあ…仕方がない。俺も行こう」 「付いてきてくれるのか?」 どうやらその流れだと、あの建物の中でひともんちゃくあったのか。がぼんやりとセネルとウィルを眺めてそんな事を考えていた。そしてウィルがささやきの水晶の場所をマウリッツに尋ね、答えを聞いたとたん隣にいたノーマが悲鳴に近い声を上げた。 「ま…まさかっそれって…!」 「一般人には人食い遺跡と呼ばれている」 「ひゃああ!ヤバイ!ヤバイよ〜!人食い遺跡だけは、トレジャーハンターの中でも、 一回行ったら戻ってこれないって有名なんだから!」 急に顔を青ざめさせて騒ぎ始めるノーマを、ウィルが引きずって歩いてゆくのをワルターが背後で眺めていた。がその視線に気づいた時には、彼の眉間には皺が寄っている。きっと多分、陸の民に手を貸されるのが本能的に嫌悪感を生んでいるんだろう。 「ノーマ、だいじょうぶ。…今まで…私達が攻略できないダンジョンとか、あった…?」 「あるわけないじゃーん!でもでも、今度は格が違うんだって!」 格、と言われてもピンと来ない。一向らは3時の方向に抜けた後、11時の方向に進んだ所で水に浮かぶ建物のような物が目に入った。 |