「はあっ…はっ…は、あ…!」


 セネル以降は現在、雪花の遺跡の洞窟入り口にて息を切らして肩を上下させていた。クロエに至っては顔を真っ青にし、膝が笑っている。何しろ、今の今まで目の前の水中を安全性も確認できない潜水艇に乗っていたのだから。そしてその潜水艇は、彼らがこの場に足を下ろした瞬間に泡を出して水中の奥底に沈んで行ってしまった。はそれをしばらく無言で眺めた後、きっぱりとこう言い放った。


「こんな、危ない思いするなら、……最初から泳いでいけば良かったのに」
「フツーこんな長い距離泳げる人間なんていないっての!」
「エラ呼吸できるヤツなら平気そうじゃがな」


 モーゼスはクカカ、と笑ってそう言い放った。エラ呼吸なんてものはできなくても、の身近にはそれに近い事ができる人物が何人も居た為か、唇を尖らせて唸った。自身、そんなに長い距離を泳ぐ事はできなくとも、泳ぐ、という発想は脳内に当たり前のように根付いていたからだ。


「そういえば、ジェージェー、ここに来る前に星印のついた壁を調べろって言ってたよね」
「うん…これ、かな?」


 ノーマの言葉にはきょろきょろと視線を巡らせた後見つけた星印のついた壁を発見し、指差した。ノーマはそれを確認すると、勢いを付けてその壁をがつんと蹴った。その蹴り飛ばした振動のせいか、壁は重い音を立てて横へとスライドする。そこから感じる緑の香りに、セネル達は自然と足が扉へと進む。


「こん場所、見覚えあるような気がするの」
「馬鹿モーすけ!気がする、じゃなくて、見覚えあるの!」
「……ジェイに、実験に使われた、みたい」
「まあ、とりあえず逃げ道は確保できたんだ。それで良しとするべきだろう」


 ウィルは眉に皺を入れながらこう告げた。皆も渋々頷く。は再度扉の中へ入る。無機質な冷たい床や壁が、まるで牢獄に居た頃を何となく思い出させた。しばらく中を歩いてゆくと、クロエがぽつりとこんなことを漏らした。


「外は厳重だったが、中は警備がそれほどでもないんだな」
「侵入してこないって、タカくくっとるんじゃろ」
「…いや、そうでもないようだ」


 セネルが何かを感じ取ったのか、構えを取る。すると、前方から通常のメガントよりも倍の大きさのあるそれが歩いてきた。それを見た皆が各自に戦闘の構えを取る。も腰から薙刀を抜き出すと構えを取った。


「門番っちゅうわけか!」
「気をつけて…!くる…!」


 門番は長く太い腕を振り回しながらセネルやクロエの攻撃を妨げる。は自分の身長程の薙刀を地面に軽く刺し、反発力によって体を高く浮かせる。体が中に浮いている間は攻撃も受けることはないだろう。そして、その間に薙刀を構え直し、上空から番人へと刀を振り下ろした。肉に刀が刺さる感覚に小さく体が粟立ったが、は腕に力を込めてそれを引き抜く。次の瞬間、ノーマ達のブレスが炸裂し、はまた薙刀の刀部分を上手く使い体を跳ねさせ、モーゼスの居る中衛地まで戻った。


「防御力が高い…!」
「穣ちゃん、無理すんな!危ない思った時は下がるんじゃ!」
「わ、…わかってるもん…!」


 そう返事をした瞬間、ノーマの悲鳴が上がった。隙を付かれて詠唱中のノーマにターゲットが行ってしまったらしい。番人の腕が振り下ろされかけた時、ノーマは痛みを覚悟して瞳を思い切り瞑った。黒い世界に響く音は、何かの鉄がぶつかるような音。そろりと瞳を開くと、金色のそれが風に靡いて流れていた。


「……っ…」
「ちょっ、!?」
「いいから…!早く…後ろに、下がって」


 は薙刀の鍔で番人の腕を抑えていたのだ。ぎりぎりと鍔が軋むような音がする。ノーマはの言葉に素直に従い後ろに下がると、も薙刀の力を緩めるようにして番人の横に避けた。その反動のせいか、番人がふらりとバランスを崩す。


「クロエ!畳み掛けるぞ!」
「任せてくれ!」


 その言葉を合図に、セネルとクロエが拳と剣を番人へと叩き付ける。次の瞬間、番人は呻くような声を上げて弾けた。スカルプチャになった番人の姿を見て、は緊張の糸が解れた様に長いため息を吐いた。


、大丈夫か?安心するのはまだ早いぞ」
「わかって、る…だいじょうぶ…」


 ウィルの言葉に、は一度深呼吸すると、薙刀に付いた番人の血を振り払った。きっと、この目の前の扉を開けば、セネルの妹、シャーリィを攫った親玉が居る。そう思うと、背中がぞわりと粟立った。この扉を通ると言う事は、あのトリプルカイツとも顔を合わせると言う事だ。運が悪ければ、また捕まるかもしれない。は無意識のうちに唇をかみ締めていた。その瞬間、ノーマがの肩を乱暴に叩いた。


、心配しなくてもだいじょーぶ!」
「…え?」
「さっき、アンタがあたしの事守ってくれたみたいに、今度はあたしもの事守ってあげちゃうからさ!」


 ノーマはそう告げると大きな茶色の片目を閉じてウィンクした。どうしてだろう、その笑顔が、の心を安心させた。ノーマの笑顔を見たせいか、無意識のうちにの顔も小さな笑みを作っている。すると、セネルがそろそろ先へ進むぞ、と声を掛けた。二人はセネルの背中を付いてゆくように、駆け足で近寄り、セネルが扉を開けるのを見ていた。