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あの出会いの日以降、チャバは何度か遊びに来るようになった。遊びと行っても夕飯や昼食を持ってきたりといった所なのだが。間食してるみたいだけどよく具合悪くしないねと尋ねれば慣れてるので、とやんわりと笑って逃げられる。 「ちゃんとご飯は決められた時間に食べなきゃ。それにほぼ日常的にお茶請けのお菓子がご飯なんておかしいよ」 「すみません。これからは気をつけます。チャバくんがご飯を差し入れしてくだされば、の話ですけど」 「はいはい…。ところでさ、」 「はい。何ですか?」 「ちゃんって、食べるのはゆっくりだけど食事する量自体は多いよね」 はあ、と気の抜けたような返事が返ってきてチャバは苦笑した。現にチャバが作ったスープも、これで3杯目だ。太らない体質なのだろうか。少し、気になった。彼はに手を出して、と自身の手を差し出す。は何も疑問も思わずにスプーンを持っていない左手を出す。チャバはそれをしばらくしげしげと眺めた後、左手の手首をがしりと掴んだ。驚いた。自分の骨ばった手首とは違い、程よく肉付いたそれ。そして自分よりも何倍も白く、細い。 「細いなあ。ちゃんと、食べてないからじゃないの?」 「さあ。女の子は皆こうだと思います。私だって太い方ですよ」 は掴まれた手首を見て、もういいですか?と尋ねた。ハッとして手を離す。何故か彼女の手首を掴んだ時から、胸が早鐘を打っている。そんなチャバにも気付かず、もくもくと食事を続けている。その差が何だか面白くて、チャバはテーブルに頬杖を着いてくつくつと笑った。 「そうだ、チャバさんに質問があったんですけど」 「何?」 「チャバさんって山賊なんですか?」 ぴしりと音を立ててがらがらと何かが崩れ落ちてゆくのが解った。別に隠していた訳ではないけれど、法術師という聖職と、山賊という野蛮な職務では、釣り合いという天秤の紐もぶつりと切れるようだった。張り詰められた糸ほど千切れやすいとはまさにこのことだ。 「え、あ……う、うん。ごめんね。」 「どうして謝るんです?」 首を傾げる彼女を見ていると、眩暈が起きそうな身体とそれと反して冷えていく頭。何を期待していたんだろう。冷えた頭は意味もわからない言い訳の言葉ばかり浮かんでは、消える。そんなことの繰り返しだった。 「オイラが山賊で、怖くない?」 「あんまり」 「物を奪ったり、非道な事をするんだよ」 「はあ。そうなんですか」 「ちゃんは、そういう人間、嫌いじゃないの?」 「うーん…」 あまり興味のなさそうな返事に、つい反発するような言葉が口をついて出る。するとは持っていたスプーンをスープ皿の上に置く。かちゃりと音がした。それにさえ、チャバの身体は強張る。 「私、あまり山賊とか実感がなくて。でも、山賊と一言で言っても色んなタイプが居るでしょう? 善悪を一言で片付けては駄目です。まあ、善か悪か、で言ったら、チャバさんは善ですよね」 「どうして、そう思うんだい」 するとはその言葉に続くように告げた。チャバさんはこの前だって小さな子を助けてくれたし、何より今だって飢えてお腹が空いていた私に食事を与えてくれました、と。力を込めて握っていた拳が、ふっと和らぐ。気にした自分が、まるで親に対して我侭を言いがなりたてていた姿と妙に重なった。 「とりあえず、チャバさんは山賊という職務が嫌いなんですか?」 「ううん。寧ろ好きだよ。尊敬するアニキが居るし」 「じゃあ良いじゃないですか。 今日チャバさんが山賊かっていうのは聞いたのは、子供達がそう言ってて、興味があったから。それだけです」 はまた笑った。最近いつもこうだ。彼女の笑顔を見ると、変に胸がざわつく。顔に熱が集まる。それを誤魔化すように、チャバもまた、笑顔を作った。そうだ、此処に来るまでに少しだけ考えていた事を彼女に告げてみよう。チャバはしどろもどろになりながら、彼女の淹れてくれた紅茶のカップを引っつかみ、言った。 「も、もしよければ、今度、オイラ達のアジトに遊びに来なよ」 「え?良いんですか?」 「うん! あ…ちゃんが、オイラ達のこと野蛮だとか、思うなら、無理強いはしないけど、」 「いいえ、是非行かせてください。チャバさんのアニキさんにも会ってみたいですし。」 ぱあ、とチャバの表情に明かりが灯る。それを見たも、一層笑みを深くして、翡翠色の瞳を細めていた。 窒息しそう、君のせいで (チャバとのある日) |